前頭側頭型認知症
この疾患は、主に前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が障害され、それによって行動や精神、言語などに症状が出てくる認知症のことを指します。脳の組織を調べたり遺伝的に診断をつけられる場合は、前頭側頭葉変性症という診断名が用いられますが、普段の診療レベルでは前頭側頭型認知症という名称が使われるようになってきました。下記に記載している⑴と⑵は指定難病に指定されています。原因は現在のところ不明ですが、神経細胞を調べると特定の特殊なたんぱく質が蓄積しているようです。
前頭葉や側頭葉はそれぞれ重要な機能を担っています。前頭葉は思考、感情、物事の判断などをつかさどっており、人格とか理性、社会性に大きく関係しています。一方側頭葉は、言葉、聴覚や、記憶とか感情に関与しています。前頭側頭型認知症では、これらの機能が低下してしまうので、行動や精神、言語などにさまざまな症状が出てきます。タイプとして大きく3つに分類されています。
(1)行動障害型前頭側頭型認知症
行動の異常が目立つタイプです。
・早期の脱抑制行動:社会的に不適切で、礼儀やマナーが欠如し、衝動的で無分別な行動
例)万引き、痴漢など反社会的行動。道徳観が低下するので罪悪感を感じない、など。
・早期の関心低下や無気力
例)家事をしない、質問しても真面目に答えない、ひきこもる、など。
・感情の麻痺
例)他人への興味がなくなる、共感や感情移入ができない、など。
・固執・常同
例)同じメニューを作る、なくなるまで食べ続ける、時刻表的な生活、など。
・食習慣の変化
例)同じものばかり食べる、甘いものを過剰に食べる、など。
・遂行機能の障害
例)行動を計画立ててできない、など。
(2)意味性認知症
言語障害が目立つタイプです。
物の名前が出てこなくなったり、知っているはずの言葉を理解できなくなったりします。読めなくなったり書けなくなったりもしますが、自分から言葉を話すのは流暢にできます。
(3)進行性非流暢性失語症
こちらも言語障害が目立ちますが、⑵とは異なり、流暢に話せなくなります。自ら話すときにも文法が崩れてしまいます。
MRIなどの画像検査では、前頭葉や側頭葉前部が縮んでいる様子がわかります。またSPECT/PETなどでは、血流や代謝が低下している所見がみられます。
現時点で、この病気の進行を止めたり回復させたりする有効な治療法は、残念ながらありません。行動の異常を緩和させるためにお薬を使ったり、適切なケアなどを行なっていくことが大切です。