不安症(不安障害)全般
不安症(不安障害)は、過剰な恐怖や不安(心配)と、それに関連した行動面での問題がみられる疾患のことを指します。ここで恐怖と不安(心配)の定義について、まず記してみます。
恐怖:はっきりした脅威に対する情動の反応
不安(心配):将来やってくるかもしれない脅威に対する予期
公園で偶然、自由に動けるライオンと遭遇したところを想像してください。野生の大きなライオンが、今にも飛びかかりそうな表情でこちらに睨みをきかせています。このとき、人は戦うか逃げるかのために、自律神経が興奮し、危険に直面しているとか、また逃げることを考えますよね。別の言い方をすると、目の前にある現実の脅威から身を守るための準備をしているといえそうです。この準備を整えるために必要な情動反応が、「恐怖」だと考えられます。
別の例で、今夜ひとりで暗い夜道を歩かなければならない状況を仮定してみましょう。暗い夜道は、オバケが出てこないか?変な人がいないか?道に迷わないか?など、心配事がつきませんね。このときには、それが実際に起こったときに対処できるように、筋肉が緊張し、覚醒レベルが高まり、いろいろなことを警戒したり回避したりする行動をとると思われます。これは将来やってくるかもしれない脅威への準備であり、「不安(心配)」という情動反応だと言えます。
さて、上記の2つの例ですが、ライオンがその場を何事もなく去って行ったとか、夜道で特にトラブルなく過ごせた場合はどうなるでしょう。脅威がなくなったので、安堵しますよね。安堵したら、先ほどまで準備していた緊張や自律神経の興奮などは落ち着くと思います。そして、よかったよかったといつも通りにリラックスして過ごせるわけです。つまり、特に病気がなくても恐怖や不安(心配)は経験するのですが、ひとたび脅威が去ってしまえば速やかに回復するのが通常の反応であると言えますね。
ところが、この恐怖や不安(心配)による反応がやたらめったら起こってしまうとどうでしょうか。恐怖や不安(心配)を、通常ならそこまでではないだろうというほど過剰に感じて反応してしまったり、通常なら考えられないくらいに長く感じ続けたりすると、それは正常とは言えなくなります。さらに、その過剰な恐怖や不安(心配)のために、日常の生活で大きな支障が出てくると、何らかの不安症(不安障害)と考えられるでしょう。
この不安症(不安障害)は、恐怖や不安(心配)の特徴などによって、いくつかに分類されています。たとえば、分離不安症、選択的緘黙、限局性恐怖症、社交不安症、パニック症、広場恐怖症、全般不安症などがあります。不安症のうち代表的な疾患について、別立てで説明していきたいと思います。